ブランディングの3つのプロセス

ファクトリーブランドに有効な事業戦略の考え方

はじめに

ブランディングとは、一般的には以下のように定義されています。

企業などが、自社製品や企業そのものの価値やイメージを高めようとすること。ブランド化。

(『広辞苑 第七版』岩波書店、2018年)

ブランド化して価値を高めるためには、競合の製品やサービスに対する圧倒的な差別化が必要です。差別化はマーケティングの基本的な手法ですが、事業の目的を達成するための差別化を実装することは容易ではありません。

近年、自社工場で生産した商品をブランド化して消費者に直接販売する小売の業態、ファクトリーブランドの市場が拡大しています。小売メーカーにとっては、自社独自のECサイト、SNSなどの発信により、問屋を通さずに消費者に直接商品やサービスを提供できる利点があります。一方で、よいものづくりをしていても、企業の強みが活かされていなかったり、ブランド価値を伝える方法やPRの仕方が適切ではないために、売り上げに伸び悩むという課題を持つ企業も少なくないでしょう。

本コラムでは、ファクトリーブランドに有効なブランディングプロセスについて、3つのポイントに絞って説明したいと思います。

ポイント

1.事業開発の土台を構築する

2.徹底したユーザー視点の商品開発

3.ユーザーを引き寄せるプロモーション戦略

問題発見がビジネスチャンスになる

次のような経営課題をお持ちの場合、ブランディングプロセスを戦略的に考えることは、事業を成長させるために有効です。

・業界の中で差別化できていない

・価格競争から抜け出せない

消費者にとって多様な選択肢がある現代では、企業の提供する製品、サービスは常に競合と比較されています。こうした状況で必要なのは、自社の強みを明確にし、独自性を活かせるマーケットを見極めて適切な差別化をすることです。

現代はモノがあふれているのにも関わらず、モノが売れない時代です。かつては、解決すべき世の中のニーズがたくさんあり、モノを作れば解消されるのでモノが売れました。モノが売れない時代というのは、課題が既に解決されているのに、解決された問題に対して解決策が渋滞している状態です。商品を開発しても、ニーズがそれに対応していなければ当然ながら売れることはありません。解決されていない問題、つまり市場の需要を発見すること自体が難しいので、問題発見がビジネスチャンスになっているというわけです*。

*モノが売れない時代とその構造について、山口周氏は著書『ニュータイプの時代』で、モノが売れない状況が問題解決をすることの希少性を高めている点を指摘しています。

ファクトリーブランド開発を成功に導く3つのプロセス

それでは、適切な差別化を行い、ファクトリーブランドとして事業化するための具体的なプロセスについて説明します。

1 事業開発の土台構築

ファーストステップでは、まず、事業開発の土台構築を考えます。自社で商品やサービスを開発するにあたり大切なのは、経営視点から開発目的を明確にすることです。

開発目的を明確にするには、自社の強みを再認識し、強みを活かした戦略の組み立てが必要です。具体的には、①自社の強みを明確にし、②強みを活かせる市場の需要を探し、③需要に合う形に整え、④強みと市場を繋げるというプロセスで進めます。

ここで間違えないでいただきたいのは、自社の強みの定義です。知識も経験もなく、これまで取り組んだことのないような全く新しい試みでは強みになりません。自社の強みとは、「息を吸うように、当たり前にできていること」です。そして、その強みに価値を見出すには、「当たり前にできていること」で解決できる、市場の課題を見つけることです。つまり、問題の設定と解決です。

2 徹底したユーザー視点の商品開発

セカンドステップは、商品開発です。そして、市場の需要を考えるときに大切なポイントは、徹底したユーザー目線で考えることです。ユーザーは、①機能性・利便性、②商品構成(ラインナップ)、③ビジュアルデザイン、④価格という4つの点を瞬間的に判断して商品を購入しています。たとえば、コーヒーを買う時でも、スターバックスでコーヒーを買う場合と、コンビニでコーヒーを買う場合のユーザーの目的は異なります。前者は、質や種類の豊富さ、店員のサービス、カフェのデザイン、空間なども含めてコーヒーを求めています。一方で後者は、手軽に、かつ安価な価格帯でコーヒーを手に入れることに重きがおかれ、店内ではなく家やオフィスなど別の場所で飲むために購入しています。両者は全く異なる需要であり、ユーザーの目的によってどういった商品やサービスを提供するべきなのかは大きく変わります。

1でみた「自社の強み」と、こうしたニーズ、つまり市場の需要を繋げて、自社の強みを活かせる市場を見つけることが開発の鍵になります。

また、商品開発の際に、ユーザー目線で考える点は上記の通りですが、その際に「プロダクトアウト」と「マーケットイン」のバランスを取ることを忘れてはいけません。商品開発において、この2つのどちらかに偏ってしまうことがままあるからです。プロダクトアウトとは、自社の技術で作れるもの、アイデアとして提案したいものを顧客に提供するスタイルであり、プロダクトインとは顧客のニーズにあわせて商品開発を行うことです。一方に偏らず、ベストバランスを取ることがビジネスとしての成功確率を上げるポイントになります。

3 ユーザーを引き寄せるプロモーション戦略

サードステップは、プロモーションです。商品やサービスをより多くの人に浸透させるには、「集める」ではなく「集まる」プロモーションに軸をおきます。「集まる」ようにするためには、顧客に共感される世界観の構築が基盤となります。

そもそも、商品を作り上げてからではプロモーションのタイミングとしては遅いのです。その商品が売れるものになるかどうかは、開発の事業戦略を構築する時に既に決まると言ってよいでしょう。売上を作りたいのであれば、売上に繋がる確率を上げることが必要です。そのために、徹底したユーザー目線で、売上に繋がる確率の高い選択をしていきます。「顧客に共感される世界観」とは、ユーザーが商品の使い方を想像しやすいということです。たとえば、ある商品を目にした時、自分の家でどのように使うかが瞬時に頭に浮かぶ、この商品があればもっと便利になる、もっと自分の生活が豊かになる、というようなイメージが膨らむような体験です。ユーザーが想像しやすい商品は、手に取られる確率が高く、要は勝手に売れていくので店舗でも扱いやすい商品となります。自社の強みを明確にした土台構築を行えば、その強度はユーザーに必ず伝わります。また、ファクトリーブランドとして商品を販売する場合は、取扱店舗でも売りやすい形を併せて提案していくと、より販路が広がっていくでしょう。

このファクトリーブランドの3ステップに関しての事例は、今後の別のコラムで具体的にお伝えしたいと思います。最後までお読みくださりありがとうございました。

執筆者

本田吉昌 / Yoshiaki Honda

代表取締役 / ビジネスデザイナー

1981年生まれ。プロダクト、インテリア、グラフィックデザインを学び、25歳でフリーランスとして独立。クリエイティブディレクターとして教育、飲食、アウトドア、伝統工芸、地方創生、農業、福祉など幅広い業界でプロジェクトを手がける。2017年 戦略コンサルティングファーム LABORATORIAN Inc. を設立。問題の本質を的確に捉え、言語化することを得意とする。近年では、アウトドア・ライフスタイル・ストア「THE GATE」、「さささ和晒ロール」などのブランディングを手がける。主な受賞に「2020年 グッドデザイン BEST100 」、「2020年 グッドデザイン グッドフォーカス賞〔技術・伝承デザイン〕 」、「Golden Pin Design Award (金點設計獎)2021」、「iF Design Award 2022」。

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