バス事業の展望

路線バスの「利用のしにくさ」という課題から考える

PERSPECTIVE #2

Photo by Yoshiaki Honda / LABORATORIAN Inc.

日本のバスを利用目的別に分類すると、主に路線バス、高速バス、夜行バス、観光バス、コミュニティバスといった種類があげられる。本稿では、日常生活の中でも身近な存在である路線バスの問題点について考えてみたいと思う。

路線バスの課題

路線バスは、公共交通機関として利用される機会が多い乗り物の一つである。定義としては、国土交通省の許認可により走行経路、区間、乗降場所、運行時刻、運賃が決められ、誰でも利用できる乗合バスのことである *1。鉄道に並ぶ便利な交通手段の選択肢であるはずの路線バスだが、利用の際、不便さを感じることは少なくない。

生活圏が都心または地方である場合の利用者属性、利用方法、バス車内の仕様といった違いはあるが、以下にあげる特徴は概ね共通しており、改善していくべき課題として指摘できる *2

【路線バスが「わかりにくい」「利用しにくい」要因】

  1. 乗降場所(バス停)の場所:乗降場所(バス停)の場所がわかりにくい。
  2. 運転間隔:運転間隔が長い。
  3. 遅延:定時性に欠けるので確実に時間に間に合わせたい時に利用しにくい。
  4. 行先、車内案内などの表示:方向案内表示、目的地、経由地がわかりにくい。
  5. 系統番号:利用者にとってバスの区別、判断に使いにくい。
  6. 路線バスとコミュニティバスとの明確な棲み分け(運行区間等)。
  7. バリアフリー対応:バリアフリーに対する整備が充分でない。車椅子用固定ベルト、ベビーカー用の固定ベルトなどの使い方が必要な人に理解されていない。
  8. 車内環境:座席、通路が狭い。
  9. 運賃が高い:電車と比較した時、また電車と組み合わせたときも高い。
  10. 乗降方法(前後の乗車位置、支払い方法等)が運営会社により異なるため、利用方法がわかりにくい。
  11. 安全性:急停車時の車内の転倒事故等への対策が充分でない、利用者に周知されていない。

ネット検索を通じて、簡単に情報を得られるようになった現在では、上記の中で部分的に解消されているものもあるだろう。しかしながら、成人から子ども、高齢者まで幅広い年齢層の人々が利用する公共交通機関としては、ソフト面だけでなく、物理的な停留所の環境、路線、案内表示などのハード面においても、よりわかりやすいあり方が求められる。

全国で交通系ICカード、GPS等による運行情報のシステムの導入、さらには自動運転バスの試験的運行が進められるものの、「わかりにくい」「利用しにくい」ことへの根本的な解決にはなっていない。

課題の根本要因

前述のように課題は多くあるが、ユーザーにとっての利用のしにくさに影響している根本的な要因は何だろうか。それは、バス事業の組織の仕組みに起因する。

路線バスの全盛期は、一般路線バスの輸送人員が年間約101億人でピークに達した1968年から67年前後の時代である。ピークを過ぎた後の輸送人員は、年々減少し続けていた。2,000年代には三大都市圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、三重、岐阜、大阪、京都、兵庫)で微増の傾向がみられるがほぼ横ばいであり、その他の地域輸送人員は減少している。輸送人員の減少には、地方の人口減少と過疎化、自家用車の普及、自動車が増えたことによる交通渋滞の発生、渋滞遅延による信頼性の低下など複数の理由があげられる。

また、一般路線バス事業者の約7割は赤字という厳しい経営状況があり(2018年度)、廃止される路線も増えている(2010年度から2018年度の合計廃止キロ数は、9482km)*3

かつては特別なPRをしなくても需要があり、利用されていた路線バス事業の状況は、時代とともに変化している。事業者全体の経営が芳しくないという現状の中で、バス事業者に対する国からの補助金制度が整備されており、事業の一部には補助金が補填される。補助金によって事業の継続が可能となったとしても、経営不振を補助金でまかなうという仕組みは、競争や向上心を生まなくなり、利用者に向けたサービスの質の低下にも繋がっていく。競争原理が働かず、改善のための努力をしてもしなくても、運営者側の立場や給与に影響することがないという状態では、利用者側の視点に基づく運営を実現することは難しい。

超高齢社会に必要とされる路線バス

バスは、高齢者にとって必要な交通手段であるという側面を持っている。高齢者、特に地方の人口密度が少ない地域に住む人にとっては、自家用車が生活に欠かせない移動手段にもなっているが、一方で、高齢になるほど事故を起こす確率は上がる。近年、高齢者による自動車事故の事件が報道され、高齢者の運転とその課題への社会的な関心も高まっている。免許証の自主返納件数も増加傾向にあり、警視庁統計では2019年に自主返納した人のうち約6割が75歳以上の高齢者であった。また、日本の総人口に占める高齢者の割合は28.7 %で世界の中で最も高い *4。少子化が進み、超高齢社会となる中で、安全で利用しやすく、費用負担も少なく済む交通手段という面からも、よりよいバスのあり方を考えていく必要があるだろう。

高齢者が自家用車を手放した場合、事故を未然に防ぐことができるとともに、税金や車検、ガソリン代、駐車場代といった諸々の維持費の負担がなくなることはメリットになる。

現状の路線バスが持つ課題が解消され、より利用しやすい交通機関となれば、高齢者の外出を促すことができ、日常生活に必要な買い物から、人との交流といった社会的接点を持つこと、趣味を楽しみ充実した時間を過ごすことまで、当事者にとっての意義は大きい。

しかしながら、高齢者への対策も含めてより利用しやすい交通機関となり、質の高いサービスを提供するビジネスを実現するには、現状のバス事業における組織体制の基盤から見直していく必要があるだろう。

執筆:塙 萌衣(リサーチャー / LABORATORIAN Inc. )

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